題名:わたしは僕に交換された。
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的に No.2030の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
僕は空港に向かう前に、スマホのYouTubeで日本でのSIMの最後の曲を聞いていた。それはピアニスト、ヤーヌシュ・オレイニチャクによるショパンの「Nocturne in C-Sharp Minor, B. 49」だった。その曲は、いやおうなしに僕に何かを連想させた。そして、4:04のその演奏が終わると、僕はスマホの電源を落とし、静かにピンでSIMスロットを開けた。そして、祖父ヤナチェクが居たヨーロッパで通信できるSIMと交換した。交換すれば、もはや日本国内での通信は不通となる。でも、その後悔は、次への航海となるに違いない。航海としても、飛行機で行くつもりであるが、字としては航海としたかった。なぜなら、ひらがなでは、同じ”こうかい”だからだ。僕のその気持ちに後悔はなかった。だから、その気持ちをここで皆様に公開している。
後の、この後の僕の人生は、空港からかの地に向かい、そこでスマホの電源を再び投入するだろう。そうすれば、僕はかの地で祖父ヤナチェクと交信できる。僕は、なんとなくそう感じている。祖母の写真を手に持ちながら、僕は祖母に語り掛けた。「お祖母ちゃん、いまから祖父の元に向かうね」と。写真の中の祖母もにっこり笑って答えているように見えた。
「まもなくSnapdragon中央国家集権に着きます」
電流スピナーのディスプレイからは、彼あるいは彼女のそのアナウンスが聞こえた。
「もうつくんだにゃん。ずいぶんと、ねていたにゃん。ちょっとのみすぎたにゃん…」
りどるは、徐々に目を覚ました。そして、ちみを見た。助手席にいるはずの、ちみを見た。でも、そこに居るのは、そこに在るのは、ちみが着ていたヂャケットのしわくちゃな彼の残骸だけだった。
「…、いってしまったにゃん。ちみは、いってしまったにゃん…。
あの~ひとは、いっていってしまったにゃん。
あのひと~は、いていてしまったにゃん。
もう、かえらない~」
「かいめい、いつきひろしだにゃん…」(図)
りどるは、寂しそうだった。
「そうなることはわかっていたにゃんども、…やっぱり、こうなると、さびしいにゃん…」
図 五木ひろし1)
SIM交換することで、スマホ内部の僕は、外部のわたしにコネクトし、僕は僕に戻った。僕は僕になった。そして、わたしは僕に交換された。もう、あのわたしには戻ることはないだろう…。きっと、たぶん…。
1) https://www.amazon.co.jp/%E3%80%90EP%E3%80%911971%E5%B9%B4-%E4%BA%94%E6%9C%A8%E3%81%B2%E3%82%8D%E3%81%97%E3%80%8C%E3%82%88%E3%81%93%E3%81%AF%E3%81%BE%E3%83%BB%E3%81%9F%E3%81%9D%E3%81%8C%E3%82%8C-%E7%94%B7%E3%81%8C%E6%B3%A3%E3%81%8F%E3%81%A8%E3%81%8D%E3%80%8D%E3%80%90%E6%A4%9C%E8%81%B4%EF%BC%9A%E9%87%9D%E9%A3%9B%E7%84%A1%E3%80%91-%E4%BA%94%E6%9C%A8%E3%81%B2%E3%82%8D%E3%81%97/dp/B079SZMCCH (閲覧2021.4.30)
…「よこはま・たそがれ」の品への案内は、こちらになります。 地底たる謎の研究室のサイトでも、テキスト版をご確認いただけます。ここをクリックすると記事の題名でサイト内を容易に検索できます。