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題名:近代の写真が芸術へと至る価値観の事実
報告者:アダム&ナッシュ

 芸術はそれを観る側の見識によって解釈が大いに異なり、例えば、現代芸術のような抽象画ではその判断に一段と高い見識が求められる。これが、レオナルド・ダ・ビンチ以前の中世の絵画であれば、教会などに描ける画家は特殊な存在でもあり、それを描ける人は、ある意味神に最も近い存在として見做された可能性もある。例えば、スクロヴェーニ礼拝堂の聖母マリアとイエス・キリストの生涯を描いた装飾画家であるジオット・ディ・ボンドーネ(1266年頃~1337年に活躍1))は、西洋絵画に現実的、三次元的な空間表現や人物の自然な感情表現をもたらし、西洋絵画の父とも言われる2)。その影響は、ルネッサンスの開幕において、決定的な出来事でもある1)。そのため、当時の人々からすれば、ジオットが描いた絵画は神の写し絵ともみなせ、ジオットは神に最も近づいた人物の一人として記憶されていたであろうことは、容易く推測できる。
 一方、レオナルド・ダ・ビンチ(1452年~1519年に活躍1))以降は、絵画にも科学的な扱いがなされた。そのことによって、そこに神を見るという神秘性よりもむしろ、科学的な分析でもって絵画の意味に一線を分かつこととなった。例えば、レオナルド・ダ・ビンチと同時期に活躍したアルブレヒト・デューラー(1471年~1528年に活躍1))は絵画の技法のひとつとして、枠の中に針金を格子状に張り巡らした方法にて女性を描いたことが明らかとなっている(図1)3)。このような方法は画家でもあり、科学者でもあったレオナルド・ダ・ビンチも当然のごとく利用していたと推測される。すなわち、この時代から、明らかに絵画には宗教的な意味の重きより

図1 アルブレヒト・デューラーによる絵画の技法3)

も、むしろ絵画は、より現実的な世界を映す意味へと考え方がシフトしたことも推測される。さらに、「真珠の耳飾りの少女」に代表されるような、1650年頃のフェルメール(1632年~1675年に活躍1))の時代ともなると、報告書のNo.235にもあるように、現在のカメラの原型ともなるカメラ・オブスクラも発展し、現在の光学の祖となる技術も絵画に用いられた形跡もあって、絵画はその後の写真技術の発展にも大いに貢献したであろう。しかしながら、写真はカメラの技術的な要素もあっ

図2 アンドレアス・グルスキー氏によるRhine II4)

て、そこから芸術と技術との境目が難しくなるのも事実である(報告書のNo.8も参照)。そのような事実もあるが、現在では写真にも芸術的な価値観が生まれ、アンドレアス・グルスキー氏による写真(図2)は、$4,3M(約3億3300万円)の価値がついた4)。これも現代の価値観の事実でもある。

1) 諸川春樹(監修): 西洋絵画史. 美術出版社. 1996.
2) https://ja.wikipedia.org/wiki/ジョット・ディ・ボンドーネ (閲覧2017.7.2)
3) ソルソ, RL: 脳は絵をどのように理解するか. 新曜社. 1997.
4) https://www.theguardian.com/artanddesign/2011/nov/11/andreas-gursky-rhine-ii-photograph/ (閲覧2017.7.2)



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