題名:ハエはエントロピーが増大する変移の状態をも好む
報告者:ナンカイン
エントロピーは報告書のNo.471やNo.472でも示したように、”乱雑さ”を表す。これを簡単な例で示せば、おならが分かりやすいであろうか。尻の穴から放出されたおならは、空気中に拡散し始めるとともに匂いがそこらじゅうに充満する。やがて完全に拡散し始めると匂いが消え、おならが空気中に完全に分散されたことが理解できる。尻の穴から出る直前のおならのエントロピーは最小の状態である。空気中に広まることでエントロピーが増大し、匂いが消えゆく過程でおならのエントロピーが最大の状態へと至る。宇宙がビックバン以降に膨張し続け、今も膨張しているのは、ひとえに宇宙のエントロピーが増大し続けている証拠でもある。このようにしてエントロピーとは何か、のイメージがおならなどからも付くが、エントロピーの用語の響きのもつよさも手伝って、近年では発祥である物理学だけではなく、情報工学、経済学などでも使用される用語となった1)。しかしながら、エントロピーの本質は”散らばり具合”にあり1)、秩序から無秩序へと移り変わっていく傾向を指す2)。一方、量子力学で著名なエルヴィーン・シュレーディンガー博士は、ヒトも含む生物体におけるエントロピーについて、次のように述べている。
「生物体は負エントロピーを食べて生きている」2)
シュレーディンガー博士は、生きている生物体の空間的境界の内部で起こる時間・空間的事象は、物理学と化学とによってどのように説明されるか? と言う問題に果敢に挑戦した2)。その結論が上記かっことなる。先にも述べたが、エントロピーは秩序から無秩序への移り変わりの傾向を示すも、生物体は無秩序、すなわち、崩壊して平衡状態になるのを免れるために、秩序を維持しているというわけである2)。ここでふと浮かぶのがハエである。例えば、野菜の切れ端などを放置しておくと、次第にどこからともなく匂いとともにウジがわき、気が付くと、そこからハエがそこらじゅうに飛んでいる現象がしばしば観察される。野菜が生きている間は生物体として負エントロピーを摂取していたのかもしれない。しかしながら、野菜の体が成さなくなると、要は腐り始める。腐る過程はまさしくエントロピーが増大へと移行したことを意味しているが、ハエ(ウジ)は虫であるにもかかわらず、この腐る過程になったとたんに、大量に発生する。ハエ(ウジ)は虫であるだけでなく、むろん生物体であるから、負エントロピーを食べて生きているのかもしれない。しかしながら、この腐る過程を特に好んでいるということは、ハエ(ウジ)はエントロピーが増大へと変移する状態をも好んでいることが明らかである。ハエは正(へ転じ始める)エントロピーも食べて生きている、とも言えるかもしれない。
なぜハエはエントロピーが増大する変移の状態をも好むのか?
図 ショウジョウバエ研究者の系譜3)
研究では生物理解のモデル生物としてショウジョウバエがよく用いられ、ノーベル賞も含めたその研究は偉大な系譜を残している(図)。それだけでなく、もしかしてハエには、生物体の進化のカギを握るエントロピーの謎も秘められているのかもしれない。
1) 矢吹哲夫: エントロピー再考 -エントロピーの発展的応用に向けて-. J.Rakuno Gakuen Univ 27: 193-209, 2003.
2) シュレーディンガー, E: 生命とは何か. 岩波書店. 2008.
3) http://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/022/sc_1.html (閲覧2017.5.18)