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題名:スマホドローム
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的に No.1981の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 僕が「プチポリ納豆スナック」の粒を堪能していると、りどるはすでに元の子ネコの姿に戻っていた。
 遠くにあるCPUがタイレルコーポレーションのように聳え立ち、抵抗やコンデンサはまるで住宅地のように密集していた。アンテナタワーは電波を発し、電流スピナーがCPUに向かうようにそこら中に飛び交っていた。回の路上ではエレクトロンが我先にと走り続け、エレクトロン・バッテリータワーは、残り18%と表示され、スマホ外部に充電を促していた。
 その時、スマホの画面越しに外部の人が見えた。それはわたしだった。
 「もう18%か、最近、バッテリーの減りが早いな。充電するか…」
 そうつぶやいていた。彼はQiにスマホを載せると、スマホ内部に強烈な放電がそこら中にほとばしった。りどるはその放電に呼応し、涙を流しながら、「おかあに、あいたいんだにゃん…」といって、放電の間に時折見えるPixelの影(図)を愛(め)で追いかけていた。
 彼はQiにおいて充電しながらも、画面を操作していた。どうやらVODで映画を見る感じだった。
 彼はプレイボタンを押した。流れてきた映像は、初めからではなく前回の続きからのようだった。

図 Pixelの影1)

「…。スマホの画面は心の網膜だ。すなわち、頭脳の一部とも言える。ゆえに、スマホ画面に現れたものは見ている者の体験となる。つまりスマホは、現実だ。現実以上に。….。私はすでに体験したが、君もすでに半分、スマホの幻覚世界にいる。完全にスマホの幻覚世界に入る危険もある。とても奇妙な新しい世界だ。
私には脳腫瘍があった。幻覚を見た腫瘍は、幻覚のせいでできたと信じている。幻覚が説けて肉体の一部となった。意志を超えて肉体に」
 そういうセリフがイヤホンモジュールを介して漏れてきた。
「彼は、何を見ているんだろうか? スマホドローム…?」
「すまほないぶでは、たぶん、びでおというごが、すまほにかわったんだにゃん。だから、ほんとうなら、びでおどろーむだにゃん」
「ビデオドローム…」
 それはデイヴィッド・クローネンバーグ監督の代表作品だった。
 「テクノロジーが変えるのは人間の心だけではない。我々は肉体的にも自分を変化させてきた。たとえば摂取するもの(食べ物や薬物)によっても変わったし、メガネだって機械の器官化だ」1)し、スマホだって機械の器官化だ。ゆえに、人間はすでに「スマホ脳」化されている。

1) https://www.pinterest.jp/pin/722616702705841910/ (閲覧2021.3.5)
2) 町山智浩: ブレードランナーの未来世紀. 洋泉社. 2006.



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