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題名:フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」における絵画の特徴
報告者:アダム&ナッシュ

 本報告書は、基本的にNo.234の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 No.234にてフェルメールの時代の流れを述べるとともに、彼の絵画の3つの特徴を挙げた。ここでは、「真珠の耳飾りの少女」を例に、この絵画の持つ特徴を掘り下げたい。
 「真珠の耳飾りの少女」は、フェルメール(Vermeer)の代表作の一つで、北のモナ・リザやオランダのモナ・リザとも言われる絵画である。1665~1667年ごろに作成され1)、現在は、オランダのデン・ハーグにあるマウリッツハイス美術館が所蔵している2)。図に「真珠の耳飾りの少女」を示す。
 一般的に、絵画はプラスの技術、写真はマイナスの技術とも言われる。それは、絵画では何もないキャンバスから絵を起こし、主題に意味づけるのに対して、写真では目の前にある状況から、如何に主題を際立たせるよう余分なものを排除する、という特質があるからである。さらに、絵画の場合は、一旦、脳というフィルタを介して、手で描くのに対して、写真の場合は、カメラというフィルタを介して、光で描く。写真の場合は、カメラというフィルタがはたして、人間の感性をダイレクトに反映させたものであるかの判断が難しくなり、そこに写真における芸術性と記録性の論議が起こる(No.8も参照)。しかしながら、フェルメールが「真珠の耳飾りの少女」を描いた時代は、カメラの原型となるカメラ・オブスクラの発展も皆無とは言えず、少なからずともフェルメールもその影響を受けていたと考えられる。それについては、No.234で示したが、この時代のオランダのもう一人の画家

xl_earring

図 真珠の耳飾りの少女1)

であるレンブラント・ハルメンス・ファン・レイン(Rembrandt Harmensz. van Rijn)も、この絵と同じように、背景が黒に近い色で沈み、かつ、顔を中心としてその他の部分は顔と比較して大まかに描いている状況からも示唆される。このような状況は、カメラ・オブスクラから主題を覗いた場合と類似している。当時のレンズは、今ほど精度が高くなかったために、主題のある部分のみに焦点が合いやすく、その他はかなりぼんやりしていた(現在のカメラでこの状態を例えれば、F値が相当に小さいレンズ(No.58も参照)で見ている状態。ただし、精度の差は比較しない)に違いない。すなわち、レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci)のモナ・リザの時代と比較して、主題への取り組む視点に、目で見た状況を幾何学的に捉えたか、あるいは、カメラ・オブスクラのような機器を介して光学的に捉えたか、が、絵画上からでも推測できる。「真珠の耳飾りの少女」を見て分かるように、まず少女の目に焦点が合う。その後に、顔全体を捉え、さらに、その後にキャンバス全体を見渡す。このように現在の多くのポートレイト写真に見られるように、焦点が合う位置から全体への見渡し方のぼかしに対する巧みな絵画技法に、光学的な要素が多く含まれている。ポワンティエ(「真珠の耳飾りの少女」で言えば、目や口、耳飾りの白光源)もその光学的なアクセントの要素となる。

1) https://ja.wikipedia.org/wiki/真珠の耳飾りの少女 (閲覧2016.3.30)
2) http://www.essentialvermeer.com/catalogue_xl/xl_earring.html#.VvounuKLSUk (閲覧2016.3.30)



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