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題名:抽象的概念の理解化と現実性
報告者:ダレナン

 例えば、1 + 2を考えてみる。答えは一般的には3とされる。しかしながら、1、2という数字と + という記号の意味が分からなければ、1 + 2は間違いなく理解できない。この報告書とても同じである。日本語が分からない人に、「これを読んでみて」と進めても間違いなく理解できない。一方で、先の計算である1 + 2を現実の世界に即して捉えると、例えば、下の図から、リンゴの数はいくつかあるかと問えば、問う際の言語的なコミュニケーションの理解は別として、3あると答えやすい。さらに、傾いているリンゴが1で、傾いていないリンゴが2であることから、先の計算の1 + 2とある意味同じ状態であるとも言える。そこから、抽象的な1 + 2 = 3でなくとも、傾いているリンゴひとつと傾いていないリンゴふたつで、みっつのリンゴがあるとなる。
 ここで、このリンゴを目の前にして、今四人のヒトがいるとする。各人にリンゴを均等に与えるにはどうすればよいのかという問いがあるとすると、先の計算に基づく数学的

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図 リンゴ1)

な概念からは、(1 + 2)/4でリンゴを分割すれば、各人に均等にリンゴを与えることができる。実に簡単な問題である。しかしながら、現実的にはみっつのリンゴを4人に均等に与えるには難しい問題となる。
 このようにして考えると、数学などの抽象的な概念は、実は現実的に解決しにくい問題を、理解しやすい問題に置き換えた高度な概念化とも言える。言い換えれば、そこに実在はなくとも、抽象的概念でもって現実性にある問題を解決することが出来る唯一の手段である。これがヒトの抽象的概念の理解化による。ヒト以外の動物では、近縁のチンパンジーと言えども、数学的には一桁の数字ぐらいの理解化(記憶化)に留まる2,3)。また、数字を理解化(記憶化)したとしても、それを組み直して様々な量として表現し直すことはできない3)。
F = ma
E = mc2
どちらもヒトが考えだした現実性を置き換えた抽象的概念の代表的な公式である。しかしながら、あらゆるヒトがこれらを完全に理解できるには、まだまだ時間がかかるであろう。mの質量はまだしも、aの加速度やFの力、cの光速やEのエネルギーは、実在するリンゴのような現実性には乏しい。ただし、これでもって物の理(ことわり)4)が真に理解できる。まさに、ニュートンやアインシュタインのおかげである。

1) http://news.mynavi.jp/news/2014/02/07/454/ (閲覧2016.6.8)
2) 松沢哲郎(著, 編集): 人間とは何か-チンパンジー研究から見えてきたこと-. 岩波書店. 2010.
3) Sarah TB, Karen IH: Primate Numerical Competence: Contributions Toward Understanding Nonhuman Cognition. Cognitive Science 24: 423–443, 2000.
4) 村山斉: 宇宙は何でできているのか. 幻冬舎. 2010.



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