題名:ヒトの顔の前面への依存性について
報告者:ナンカイン
一般的にヒトだけでなく、多くの動物(哺乳類)の顔のパーツは進化上からほぼ決定されている。目が二つ、鼻が一つ(ただし、穴は二つ)、口が一つ、耳が二つである。細かい相違はあるかもしれないが、おおむねこのパーツで構成されている。しかしながら、ヒトの顔は、さらに他の動物と比較して、顎の突出が小さく、歯も奥まっているのが特徴となる。そのため、顔のパーツ構成は他の動物と同じであっても、ヒトは、テルマエ・ロマエの例ではないが、動物からしてみると、明らかに「平たい顔族」ならぬ、「平たい顔属」でもある。そのため、ことさらヒトの顔の前面が目立つ。報告書のNo.723でも示されているが、ヒトの顔が表情でもって判定されやすいのは、ヒトの顔の前面への依存性が高いことをも暗示している。さらに、ヒトだけではなくヒトの近縁である霊長類も、やはり同じように表情が豊かであり、ヒトほど平たくはないが、他の動物よりも顔の前面への依存性が伺われる。
このヒトの顔の前面への依存性、その中でも、特に視覚の位置に関しては、イギリスの眼科医でもあったEdward Collins博士の洞察によって、初期の霊長類が「枝から枝まで正確に揺り動かして食べ物を把握し、口に伝える」ためにこのような視覚システムを有した、と仮説を立てている2)。近年では、理論生物学者であるMark Changizi博士によって、ヒトの両眼視に伴う前面への依存について、一つの説を掲げ、謎を解き明かそうとしている。それが、「X線」仮説である。図にこの仮説の概要を示す。この前面の両眼視の高収束によって、ヒトは見えない奥をも見えるように機能している、との仮説である。その他、博士の視覚システムに関する研究の一連の流れは文献4)に詳しいので、そちらを拝見していただきたいが、このヒトの特有の「X線」によって、見えないものを見えるようになるとともに、ヒトの表情をも、よくもわるくも、ヒトは読み取ってしまっているのかもしれない4)。
一方、ヒトも猿も、顔の平均的な均一性を好む5)。そのため、レオナルド・ダ・ビンチのモナリザのように、平均美顔がヒトの間
図 「X線」仮説3)
で好まれるのも(報告書のNo.596も参照)、「X線」仮説に基づいて、新たな一仮説を立脚できるかもしれない。例えば、それを「ヒトの平均美顔への依存性は、表情への心的な、かつ、邪推的なX線により決定される」、とでも言い換えることができようか。
1)https://www.snoringmouthpieceguide.com/mma-surgery-for-snoring-what-is-involved-in-jaw-surgery-and-does-it-stop-snoring/ (閲覧2018.2.7)
2) http://www.bbc.com/future/story/20141013-why-do-your-eyes-face-forwards (閲覧2018.2.7)
3) Changizi MA & Shimojo S: “X-ray vision” and the evolution of forward-facing eyes. Journal of Theoretical Biology 254: 756-767, 2008.
4) Changizi, MA: ひとの眼、驚異の進化: 4つの凄い視覚能力があるわけ. インターシフト, 2011.
5) Damon F, et al.: Preference for facial averageness: Evidence for a common mechanism in human and macaque infants. Sci Rep DOI: 10.1038/srep46303, 2017.