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題名:今日の映画は、「映画『愛を読むひと』(The Reader, 2008年)の深掘りレビュー」
報告者:ダレナン

映画『愛を読むひと』(The Reader, 2008年)について、深掘りしたレビューをお届けします。

【作品概要】

監督:スティーヴン・ダルドリー
原作:ベルンハルト・シュリンク『朗読者』
脚本:デヴィッド・ヘア
主演:ケイト・ウィンスレット(ハンナ・シュミッツ)、レイフ・ファインズ、デヴィッド・クロス(青年期マイケル)

【物語の概要】(ネタバレ注意)

1950年代の西ドイツ。15歳の少年マイケルは、体調を崩したところを助けてくれた中年女性ハンナと恋に落ちる。やがて彼らは肉体関係を結び、マイケルは毎回ハンナに本を朗読するようになる。突然ハンナは彼の前から姿を消すが、8年後、法科大学の見学で戦争犯罪の裁判に臨席したマイケルは、被告席にいるハンナを目にする。

【演技と人物造形】

ケイト・ウィンスレット(ハンナ・シュミッツ)
彼女の演技はこの映画の「魂」ともいえる存在で、無学で無骨な女性を、知的ではないが誇り高い存在として体現しています。特筆すべきは、「読み書きができない」という秘密を守るために、自ら進んで重い罪を引き受けるという一貫した姿勢。この「恥」の概念が、ハンナというキャラクターを単なる戦争加害者から一段階深い存在へと引き上げています。

マイケル(青年期:デヴィッド・クロス/中年期:レイフ・ファインズ)
少年期のマイケルの純粋さと、中年になっても癒えないトラウマの深さが、二人の俳優によって見事に描かれています。マイケルはハンナへの愛と、彼女の過去への怒りの間で揺れ動き続けます。この「二重の背負い方」が観客に強烈な共感と苦悩を与えるのです。

【テーマとモラルの複雑性】

「読み書き」と「理解」
映画の原題 “The Reader” が象徴するように、「読むこと」は単なる行為ではなく、「他者を理解する鍵」です。ハンナは文字を読めなかったために、自らの行動の意味を深く掘り下げることができなかった。一方マイケルは、読むことで知性を得たが、ハンナの行動や感情の「行間」を読み取るには長い時間が必要だった。

「愛」と「罪の赦し」
本作は一貫して、「人は罪を犯しても、赦されるべきか?」という問いを投げかけています。ハンナは贖罪の機会を求めたが、社会もマイケルもその全てを与えたわけではない。愛と赦しの間には、大きな断絶が横たわっているのです。

戦争加害者としての描き方
ナチスの元看守であるハンナの「責任」とは何か? 映画は彼女の行為を決して美化していません。むしろ「凡庸な悪」=平凡な人間が極端な状況下で犯す罪を静かに提示しています。

【総評】

『愛を読むひと』は、単なる恋愛映画でもなければ、戦争映画でもない。それは「記憶」「罪」「赦し」「愛」といった、人間存在の根底にあるテーマに真正面から向き合った作品です。

その語り口は静かで詩的ですが、問いかけは鋭く重い。観る者に「自分ならどうするか?」と考えさせる力を持っています。



…「愛を読むひと」の品への案内は、こちらになります。


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