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題名:ゴム人間ベムベ零号(仮)の一生
報告者:ダレナン

 このつど開発された特殊ゴムは、人間と同じように骨や筋肉となる機能を備えることができ、また、脳の働きと同じように意識や記憶といった機能も備えることができるぐらいに精度の高い物質で分子化レベルが可能となった。そのゴムによって創造された人間型のゴム人形、正確に言えば、意志のない人形ではなく、すでに見た目と機能は人間と同じような状況であったことから、ゴム人間と称するのがふさわしいかもしれないが、ようやく完成へとこぎつけることができた。そのゴム人間の試作零号の名を、仮にベムベとしよう。そのベムベ零号(仮)を類例すれば、映画「ターミネーター2」に登場する液体金属で構成された最新モデルT-1000型と同じようなものをイメージしてもらえばよいかもしれない。ただし、T-1000型のように変幻自在に変形できるわけではない。形状はあくまでも人間型のままである。さらに、ゴム人間を部分部分で確認すると、人間と同じような骨や器官などがあるわけでもない。ゴム内の分子機能としてそれらが個々の機能へと分化されているために、構造は人間とは著しく異なる。いわば内部の構造は、一見してただのゴム組織の配列であった。しかしながら、先にも述べたように、そのゴム人形が備えた機能は人間そっくりであった。

「ここにきて、ようやく完成した。我が研究の長年の成果として苦節40年。人間と同じ機能を持たせることができる特殊ゴムの分子化レベルの開発によって、従来のロボットとはまったく構造が異なるが、新たなアンドロイド(人造人間)の誕生でもある。」
開発したエドモンド博士は、満足そうに頷いた。

「それではベムベ零号。走って見せよ。」
ベムベ零号は軽快に走った。その走りは、人間とまったく同じであった。

「それではベムベ零号。この問題を解いてみよ。」
簡単な数学の問題を提示すると、うまくペンを使いながら、その問題をすらすらと解いた。すると、ベムベ零号は「博士。こんな問題は簡単すぎます。もっと人間と同じことがしたいです。」と、ベムベ零号は自ら博士に嘆願した。「ほぅ。試作といえどもかなり完成度が高い。期待がもてそうだな。」
 ただし、博士にとってこの試作には大きな心配な点が一つあった。特殊ゴム内の物質に、様々な分子化レベルを試みたゆえ、ゴムの耐久性が低く、明らかな経年変化が心配された。すなわち、長く酸素に触れることで劣化を起こし、ひび割れやベタベタなどの一般的なゴムの特徴が、徐々に如実に出てしまうことが怪訝された。
 その後、しばらくベムベ零号と生活を共にし、博士はその機能の有用ぶりに驚いた。人間が行うあらゆることを様々と吸収し、柔軟に対応できた。ただ、特殊ゴムに柔軟性がある間は、ベムベ零号は博士に逆らうことなく、性格も穏やかであった。が、次第にゴムに劣化が見え始めるとともに、ベムベ零号の体のあちこちに亀裂が入り、ベトベトし始め、性格も柔軟性がなくなり、硬直し始めているのが分かった。ある時、ベムベ零号が座ろうとした椅子にささくれがあり、ベムベ零号の体に刺さったのを機についにキレた。
 柔軟性があった時はキレることがなかったベムベ零号であるが、椅子を蹴とばしながら、体のあちこちに亀裂が入って、さらに思考にも柔軟性を失っていくベムベ零号を見ると、博士はこう思わずにはいられなかった。「ゴム人間といえども、その容態は、まるで人間の一生と同じか…….。」



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