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題名:最も深海にいる貝と人間模様
報告者:トシ

 深海生物の世界は奥が深い。魚で言えばチョウチンアンコウ(No.124)のようにチョウチンを持つタイプがいたり、あるいは、頭が透明であったりするデメニギスや、口が異様に大きいホウライエソなどが存在する。その様相は明らかに異質であり、深海というある種において、俗世界とかけ離れた独自の進化を垣間見ることができる。深海生物の詳しい生態などは文献1)に譲るが、ここでは最も深海にいる貝に光を当て、その生態に迫りたい。しかしながら、なぜ、ここで深海の貝に光を当てるのかと問われると、その答えはこうである。

人が俗世界を離れ、仮に深海で殻に閉じこもった場合、その人はどのような進化を遂げるのか?

について関連付けたいからである。
 いろいろな人間関係から人は時に何かを見失う。それは、深海の真っ暗な状態と変わりなく、上から圧し掛かる力は、まさに深海の水圧と変わりない。しかしながら、あえてそのような状態に身を置いたのが、最も深海にいる貝であり、彼ら(彼女ら?)は、それにうまく適合し、独自の進化を遂げた。2001年にインド洋で発見されたウロコフネタマガイ(学名はChrysomallon squamiferum)がそれである2-4)。図にウロコフネタマガイを示す。この貝が生息しているフィールドは、深度 2420-2450 m (注:ウロコフネタマガイは最も深海にいる貝ではない可能性もあるが、ここでは最も深海にいるとしたい) で、熱水噴出孔付近とされる2)。この貝は、熱水噴出孔の硫化物の濃度が高いフィールドに生育するため、その海水を鱗に取り込んでいることが特徴である6)。また、黄鉄鉱やグレイジャイトを主とする鉄化合物によっても覆われ、そのグレイジャイトは磁気を帯びているため、貝が磁石にぴったりとくっつく6)。言わば、硫化鉄の鎧を持った貝である7)。その鎧は、人間の体で最も硬いとされる歯の2倍もの硬度があると言われている8)。

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図 ウロコフネタマガイ5)

 このようなウロコフネタマガイが生息するフィールドに人として引きこもれば、その鎧を身につけられることができるのであろうか。豆腐の心を持つ筆者としては、ウロコフネタマガイがうらやましい限りである。

1) 北村雄一: 深海生物ファイル あなたの知らない暗黒世界の住人たち. ネコ・パブリッシング. 2005.
2) https://ja.wikipedia.org/wiki/ウロコフネタマガイ (閲覧2016.2.15)
3) Van Dover, CL et al.: Biogeography and Ecological Setting of Indian Ocean Hydrothermal Vents. Science 294, 818-823, 2001.
4) Chen, C et al.: The ‘scaly-foot gastropod’: a new genus and species of hydrothermal vent-endemic gastropod (Neomphalina: Peltospiridae) from the Indian Ocean. J Mollus Stud 81, 322-334, 2015.
5) http://www.jamstec.go.jp/e/about/press_release/20091130/ (閲覧2016.2.15)
6) http://karapaia.livedoor.biz/archives/52193574.html (閲覧2016.2.15)
7) http://www.02320.net/scaly-foot/ (閲覧2016.2.15)
8) http://hinata.cocotte.jp/fswiki/wiki.cgi?page=%A5%B9%A5%B1%A1%BC%A5%EA%A1%BC%A5%D5%A5%C3%A5%C8%A1%C4%C2%CE%C4%B94cm%A4%CE%A5%EA%A5%A2%A5%EB%A1%A6%A5%B0%A5%E9%A5%D3%A5%E2%A5%B9 (閲覧2016.2.15)



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