題名:新たな土食文化を感じる -土とヒトとの関係-
報告者:エゲンスキー
本報告書は、基本的にNo.791の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
先の報告書にて土壌中にいる微生物のマイコバクテリウム・バッカエ(Mycobacterium vaccae:M. vaccae)の作用について調べるとともに、M. vaccaeは古くからのヒトとの共生によって、ヒトの免疫機能を改善させ、感情面や学習面でもよい作用を及ぼしている可能性について述べた。ここでは、一歩進んで、ヒトの土を食べる文化、所謂土食文化について調べるとともに、それとヒトとの関係について迫りたい。
人類が土壌を摂食する文化、所謂土食文化は世界各地に分布し、その効果として消化作用の促進、滋養強壮、解毒などがあるとされている1)。例えば、文献1), 2)によれば、ベトナムのある地域では、土を網で焼いて客にだす習慣があり、ハイチでは、テーレという土入りのビスケットを食べ、日本でも、アイヌが百合の根と土を煮て食べたことが知られている。さらに、ネイティブアメリカンは、土をイーワーキー(癒しの土)と呼び、疲れ果てた心を癒すために食した。ただし、それらはあくまでも土を摂取するというならわしであり、土そのものを主食とするわけではないために、異食症3)とは区別しないといけない。しかしながら、土を食べる文化的な背景の結論として、古からの教えで、土の中には摂取すべき何かが含まれていたことを暗示している可能性もある。それは、M. vaccaeの存在でもあり、その他の微生物などの影響もあるのかもしれないが、ネイティブアメリカンによる土食での心労回復の効果は、M. vaccaeによる免疫機能の改善を古からの教えとして示唆されていたとしてもおかしくはない。
一方、近年は土壌の汚染などもあり、安易に土を食べることは決して好ましくはない。ただし、ガーデニングなどの園芸によって自然に土と触れ、それによってM. vaccaeなどの土壌細菌に触れることは、免疫調節特性を獲得し、結果としてうつ病などの素晴らしい治療法ともなり得ることが示唆される4)。
その一方、汚染のない土であるなら、積極的に土を食べてもよいのかもしれない。それに果敢に挑戦したのが、東京の五反田にあるレストラン「ヌキテパ」5)のシェフである田辺年男氏である。氏によれば、農薬を使っていない土は食べられるという農家の方からヒントによって土を食材として捉え、究極の素材として“大地”を選択した6)。歴史から見ても、縄文時代や江戸時代後期まで日本人も土を食べており、特に、山に住む人々たちのミネラル源として土は食べられていたという6)。図に「ヌテキパ」のびっくり土という名の料理を示す。その料理の詳細は文献6)を参照していただきたいが、ひ
図 「ヌテキパ」のびっくり土6)
と口食べると、土の味をダイレクトに感じるという。これぞまさに、新たな土食文化を感じずにはいられない。
1) https://ja.wikipedia.org/wiki/土_(食材) (閲覧2018.5.7)
2) 杉岡幸徳: 世界奇食大全. 文藝春秋. 2009.
3) https://ja.wikipedia.org/wiki/異食症 (閲覧2018.5.7)
4) https://qz.com/993258/dirt-has-a-microbiome-and-it-may-double-as-an-antidepressant/ (閲覧2018.5.7)
5) http://www.nequittezpas.com/ (閲覧2018.5.7)
6) https://www.gnavi.co.jp/dressing/article/20610/ (閲覧2018.5.7)