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題名:絵画におけるロマンティックな情景 -画家Ron Hicksの作例から-
報告者:アダム&ナッシュ

 絵画の移り変わりは、歴史的な背景や絵画技法、絵の具、写真などの技術的な発展と関係が深い。ルネサンス以前では宗教的神話をもとに創造に基づく内容が多く、壁や板に書かれた作品が多かったのに対して、ルネサンス以降ではキャンパスや油絵の具の発展、さらに、遠近法などの絵画技法の発展により写実的に描かれるようになった。17世紀ごろには、宗教的な場面だけでなく、庶民の通俗的な生活場面も多く描かれるようになった。その後に、写真の技術が発達すると、写実的には写真が使われるようになり、その代わりに絵画らしいマチエールに飛んだ技法のひとつでもある印象派などが台頭し、絵画への見方が変わるとともに、今ではより思考の本質に迫るべく、抽象的な画法も多くなった。
 画家や美術評論家は「眼で描く」ことと「脳で描く」ことを区別し、印象主義は前者に属するが、パブロ・ピカソに代表されるような形態上の極端な解体・単純化・抽象化のキュビズム1)は後者に属する2)。しかしながら、どのような絵画技法であっても、絵画は画家の脳というフィルタを介して描かれる(No.235も参照)。そのため、そこには外界の物理的現実だけではなく、脳の機構と脳の法則によって表現が追及されていることは間違いない2)。それでは、脳の法則は何かと問えば、これを神経処理の過程からロンドン大学のSemir Zeki博士2)に従えば、まず、脳に届く絶えず変化する膨大な量の情報の中から、物体や表面の恒常的、かつ、本質的な特性を同定するために必要な情報を選択する。次に、知識を獲得する上で重要でない情報は、すべて差し引いて犠牲にし、選択された情報を脳内に蓄積されている過去の視覚情報に関する記録と比較する。そして、その結果として物体、もしくは、場面を同定し、分類し、描く、となるであろう。そこまでには、その画家が描きたい対象に対する明確な意識も塗り込められる。
 そこで、この意識にロマンティックを当てはめる。ロマンティックとは、空想や夢想、情熱的な、恋愛といった意味があるが、感覚的な言葉でもあり、半ば具体化しにくい。1985年頃に活躍したバンドC-C-Bに「Romanticが止まらない」というヒット曲があったが、胸が苦しくなるのは、ロマンティックであることは分かってはいても、そのロマンティックは形として具現できない。そのため、絵画や歌という人類が最古から培ってきた芸術的な手段によって、脳内のあいまいな表現をそこに投影することが、結局は最もそのロマンティックの本質に迫ることができようか。先に述べたように少なくとも絵画は、画家の脳というフィルタを介して描かれる技法であることから、その画家が模索するロマンティックという抽象的な感覚でさえも、絵画に投影しやすい。その作例として画家Ron Hicks氏の作例を図に示す。Ron Hicks氏の表現として、「…私は人生をロマンティックにするのが好きで、世俗的なことかもしれないが、それに大きな美しさを感じています。」3)とあるように、この作例だけでなく、氏の作例すべて

図 画家Ron Hicks氏の作例3)

において、まさにロマンティックがとまらない。とても素敵な瞬間である。

1) https://ja.wikipedia.org/wiki/キュビスム (閲覧2018.3.9)
2) ゼキ, セミール: 脳は美をいかに感じるか. 日本経済新聞社. 2002.
3) http://www.ronhicks.com/ (閲覧2018.3.9)



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