題名:今日のお題は、「海のもくずと海のもずく」
報告者:ダレナン
(No.2296の続き)
今日はご近所さまから総菜を少しいただいた。妻の成美の好きなものもあった。今日の夜はこれでなんとかなりそうだ。
おいしいものがあると成美もご機嫌。夕食を終えてからこれを執筆していると、妻の鼻歌が聞こえてきた。ご機嫌のようだった。
ただ、海底る僕の気持ちは深海に沈んだままだった。なんのために執筆しているのだろう、僕のこの執筆にはなんの意味があるんだろうか。
以前は、僕の中の弔いであった。でも、奴らの顔は消えようにも消えず、ふとしたことで鎌首をもたげてくる。そして僕にいうのだ。「できそこない野郎、無能野郎」と。別にかつての仕事上でそういわれたわけではない。でも、彼らの顔にはそう書いてある。「貴様は無能だ」と。
もうたくさんだ。なんどかいても、なんどかいても、同じだ。こんな文章、一生陽の目をみることがない。
「お前は無能なんだ」と奴らは笑う。
暗い夜。月明りだけ海を照らしている。
寒空のもと僕はゴムボートに乗っている。ゴムボートのヘリに座り、下を覗くと、海は青くなく、真っ黒だった。
この底に僕が招かれる世界が待っている。
イルカの鳴く声が遠くで聞こえる。
そういえば映画「セクシャリティー」にはロザンナ・アークエットが出演していた。大好きだった映画「グラン・ブルー」のジョアンナだった。彼女のしわを見ると、年月を感じた。ジョアンナと同じく、僕も相当に年取った。
僕はジャック・マイヨールのようなダイバーじゃない。このままゴムボートから落ちれば、奈落の海の底に落ちる。
ジャックも自ら命を絶った。2001年12月22日のことだった。
僕ももう終わりにしたい。
僕はもうすべてを終わりにしたい。
海のもずくになりたい。もずく、もくず、もずく…。
(明日の買い物で成美の好きな、もずく買わなきゃ。)
半眠りの状態で僕は明日の買い物のリストアップしながら、今日のお題は、「海のもくずと海のもずく」にした。海の底は真っ暗だった。でも、その暗さが心地よく、僕はいつの間にか眠った。
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