題名:腐りゆく肉体と研ぎ澄まされる精神、あるいは存在の時間軸
報告者:ダレナン
人はどこから来て、どこに行くのか?
その答えは、誰もしらない。悠久の歴史から、人類は幾度となくこの疑問を繰り返してきたにも関わらず。
現在ほどテクノロジーが発展していなかった時代、この疑問を解決すべく、最善の方法は、物語をつぐむことにあった。特に火を囲みながら語る物語は、人類の文化形成に大きな影響を与えた1,2)。その物語には、過去と未来を繋ぐ伝承があり、それを伝授する(できる)者が語り部として尊敬されていた。いわゆる部族の長たる者がそれに相当するであろう。あるいは、未来を感じ取れる予言者のような存在たる人物も、その中にはいたかもしれない。過去の経験や判断に基づくデーターベースから引き出される、未来の最善の行く末を類推する(できる)力を多くもった人が語り部として、幾度となく人類は火の周りで、その疑問の答えを問い詰めてきた。DNA上、人に最も近いチンパンジーですら、未来を予想することに関心がなく3)、その疑問を持てること自体、人が人たる所以であろう。
一方、人間は生物である。どのような類推力があったとしても、その肉体は生物学的にはゆくゆくは滅びる運命にある。人の肉体的な成長はほぼ27歳で止まるとされ4)、そこからは結局は腐りゆく。肉体的には死に向かい、老化はその時点から起こる。しかしながら、精神の基盤となる脳は、20歳を過ぎ、年齢とともに細胞数こそ減少するものの、細胞と細胞がつなぐネットワークが密になれば、思考する力も発達し続ける5,6)。脳への刺激によって、肉体は腐りゆくとも、精神は研ぎ澄まされる。
脳科学者のJ・B・テイラーは自身の脳卒中の経験から右脳と左脳の違いについて明確な答えを出している7)。右脳は並列プロセッサとして働き、左脳は単一プロセッサとして働く。交連繊維である脳梁を介して右脳と左脳は連携するものの、その機能は別である。右脳の機能は「現在」で、自分を取り巻くすべてのエネルギーとつながり、左脳の機能は「過去と未来」で、過去のすべてと結びつけて、将来のすべての可能性へと投影する。右脳は直感的、左脳は論理的と言われる根拠は、このテイラーの考察からはっきりと導き出されている。
腐りゆく肉体をまじかにして、人は考える。精神を研ぎ澄ませるために。今は「現在」か、それとも「過去」か、それとも「未来」か?
人に関するあらゆる疑問は、結局は「神のみぞ知る」。しかしながら、その神自体も人の想像の産物である。
脳は一体、どの時間軸とつながっているのであろうか?
1) http://www.pnas.org/content/111/39/14027 (閲覧2015.8.27)
2) http://news.sciencemag.org/archaeology/2014/09/ancient-campfires-led-rise-storytelling (閲覧2015.8.27)
3) 松沢哲郎(著, 編集): 人間とは何か-チンパンジー研究から見えてきたこと-. 岩波書店. 2010.
4) 高橋巌: シュタイナー 生命の教育. 角川学芸出版. 2014.
5) https://happylifestyle.com/4646 (閲覧2015.8.27)
6) http://allabout.co.jp/gm/gc/299391/ (閲覧2015.8.27)
7) http://www.ted.com/talks/jill_bolte_taylor_s_powerful_stroke_of_insight?language=ja#t-20845 (閲覧2015.8.27)