題名:「お手」をするイヌの心理 -権威と権力への補足-
報告者:エゲンスキー
本報告書は、基本的にNo.953の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
報告書のNo.953にて権威と権力について考え、No.954では権力から生じる歪んだ権威について考えた。そして、所謂”バカ殿”についてNo.955で示した通りである。それらの報告書の中でも、「服従を権力の構図として捉え直すと、与えられた側の盲心的な権威は、与える側の権力を行使したいがための、洗脳的な心理移行作戦ともいえるのかもしれない。」とNo.953では述べた。ここで、その洗脳ともなるであろう心理として、分かりやすい例でそれを補足したい。それは、イヌの「お手」である。
よく飼い主(ヒト)に飼いならされたイヌは「お手」する。飼い主(ヒト)とイヌ(愛犬)のコミュニケーションが成立している証でもある行動である。その教え方は、①犬の片方の(「お手」の場合は右前足)前足を手の平に乗せ、②褒めておやつをあげ、③イヌの前足を下してあげ、④①~③を繰り返し、ある程度できるようになったら、⑤イヌの前に手の平を出し少し待ってみる、となる1)。そして、イヌが自分で前足を乗せて来たら「お手」を覚えた証拠ともなる1)。それができた初期の頃のイヌの気持ちは、「ご主人さまの「お手」の合図で、前足をあげる」ではなく、「ご主人さまの「お手」の合図で、前足をあげると、おやつがあたる」である。おやつが当たるから「お手」をしたい。しかしながら、次第に、おやつなしでも「お手」が出来るようになる。それは、飼い主(ヒト)とイヌ(愛犬)の間に完全なコミュニケーションが成り立ったことも示している。そのコミュニケーションが成立した頃のイヌの気持ちは、「お手」の合図を出すご主人さまは、ご主人さまとの名の通り、絶対的な権威となる。それは、イヌにとってはヒトの”いうことをきく心理”でもある。ご主人さまに対して、安心感を覚え、イヌの心のうちに、ご主人さまに対する権威者としての安心が芽生える。「俺(飼い主)に従え」ではなく、「ご主人さま(飼い主)の仰せの通りに」というイヌ側からの”いうことをきく心理”となる。しかしながら、何度も「お手」を要求しようとも、一向に「お手」をしないイヌには、俺(飼い主)に服従させるが如く、権力(暴力)を振りまく。そうして、イヌは、その俺(飼い主)が来るたびに、キャンキャンと吠える。これはイヌでもヒトでも同じである。
ヒトでも同じく、権威ある人間としてふるまおうとする人間は、権力的になり、権力をふるまわす人間となる2)。権威という、人間が他の人間に、自発的にいうことをきかせるものが力を失い、権力がその埋め合わせをして、力で人間をまとめようとする2)。最たるものは、内側では常に防衛のためだと主張しながら、外側からの危機を誇張することで、攻撃をしかけ、無理やりまとめようとする2)。歪んだ権威は、権力を行使したいがために、不安を仰いで服従側を洗脳させる。
図 「お手」をするイヌ3)
結局は、”いうことをきく”は権威によるが、”いうことをきかせる”は権力となる2)。そして、権威を持っているといわれるものの中(ご主人さま)には、権威そのものはなく、権威を感じるものの内部にあるもの(愛された犬)に、権威が投射された結果として2)から一部筆者が改訂補足、そこには、明確な、権威と権力の違いがある(図)。
1) https://petokoto.com/686 (閲覧2018.11.8)
2) なだいなだ: 権威と権力. 岩波書店. 1974.
3) https://www.paylessimages.jp/detail.php?id=gf1060625633 (閲覧2018.11.8)