題名:人の顔を認識する脳領域の特定
報告者:アダム&ナッシュ
人の顔は様々である。それは、人種や親からの遺伝、あるいは、育った環境や生活因子などにも影響される。しかしながら、人の顔に対する印象は、報告書のNo.329でも示したように、脳内の何らかの基準で持ってあらゆる人から同じような一定の判定を得やすいことがあるのも事実である。そのため、顔がよいと判定されると社会的にも恵まれているが、わるいと判定されると社会的にも不利になりやすい。特に、第一印象は相手への心象印象を決定づける大きな因子ともなり(報告書のNo.60も参照)、顔がよいという第一印象を持たれるに越したことはない。しかしながら、人種や親からの遺伝は個人の努力ではなんともできない。近年のプチ整形などの形成外科の進歩は、その個人の努力を医学的技術でもって補おうとする表れでもあろうか。
一方、あらゆる人から同じような一定の判定を得やすいということは、脳内の人の顔の認識過程には、人に備わった一定の生物的な根拠があるに違いない。そこで、本報告書ではまず人の顔の認識する脳領域を特定し、その領域の損傷が人の顔の認識にどのような影響を及ぼすのかについて調べたい。
人の顔の表情について、まとめて科学的にアプローチを試みたのは、チャールズ・ダーウィン博士になる。ダーウィン博士は1872年に著書「人及び動物の表情について」と題して、動物から人間までの表情について進化論的に論じている。人の表情については、大まかに、悲哀、上機嫌、不機嫌、憤怒、嫌悪、驚愕、赤面などに分類して分析している。ただし、先の著書は旧字体のため、非常に読みにくい。そのことから、その場合は、この本について解説している文献1)を参照していただきたい。それから経ること、1969年には、アメリカの心理学者であるロバート・イン博士によって、健康な成人を対象にした実験により、顔の認知と物体の認識を比較すると、物体よりも顔を認識する方がより頻繁であったことが発見されている2)。さらに、近年では、脳内の血流を調べるfMRI(機能的磁気共鳴画像装置)などの登場もあり、脳内における人の顔の認識領域も特定されつつある。例えば、インディアナ大学のアイナ・プース博士ら3)や、ハーバード大学のナンシー・カンウィッシャー博士ら4)によって、脳内で人の顔を認識する領域は、脳の紡錘状回と呼ばれる位置にあることが知られている。その位置を図に示す。この紡錘形回の領域が損傷されると、人の顔が認識できないことを特徴とする神経学的障害の相貌失認(声を聞けば誰かわかるが、顔を見ても認識
図 左右の紡錘形回5)
できない)という症状がもたらされることも判明している5), 6)。
1) http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20061216 (閲覧2017.9.5)
2) Yin, Robert: Looking at Upside Down Faces. Journal of Experimental Psychology. 81: 141-145, 1969.
3) Aina Puce, et al.: Differential Sensitivity of Human Visual Cortex to Faces, Letterstrings, and Textures: A Functional Magnetic Resonance Imaging Study. Journal of Neuroscience 16: 5205-5215, 1996.
4) Nancy Kanwisher, et al.: The Fusiform Face Area: A Module in Human Extrastriate Cortex Specialized for Face Perception. Journal of Neuroscience 17: 4302-4311, 1997.
5) http://io9.gizmodo.com/5953993/what-makes-us-see-jesus-in-a-taco-or-a-human-face-on-mars (閲覧2017.9.5)
6) http://nouai.blog.fc2.com/blog-entry-17.html (閲覧2017.9.5)