題名:炭火でする焼肉の色の科学
報告者:ナンカイン
炭火でする焼肉には、他にはない調理法の特徴がある。その一つは炭による火を使うこと、もう一つは肉をその火で焼くことである。当たり前のことではあるが、これが実に奥深い。
炭は一般的には黒炭といわれ、見た目がとても黒い。中には白炭のようなやや白みがかった炭もあるが、普通は黒い。しかしながら、これが熱を持つと、赤くなる。これはなぜだろうか?
実は物自体には色はついていない1)。物から反射する光の波長の影響によって、物に色がついて見える。すなわち、物がある色に見えるのは、ある特定の波長の光がその物から反射されることによって、その反射された光の波長色がその物の色として認識されていることに由来する1)。この物と色に関して詳細に調べると、そこには物を構成する分子の、原子の、さらに構成する原子核と電子の、その電子にエネルギーとしての光があたり、電子が励起されることが、現象として物の色を決め、物を反射した光が網膜を通して脳内に入った時にその物と色とを関係づけられることが、人間として物の色を認識する2,3)。一般に、黒は、全ての光の波長を吸収した状態であり、物を構成している原子の中の電子がすべての光エネルギーを受け取るため、高エネルギー状態(励起状態)になっており、白は、全ての光の波長を反射した状態であり、黒とは反対の状態である。人間が感じ取れる光の波長を可視光線というが、色によって有するエネルギーは異なる4)。
黒い炭に、火をつけ、赤くする。これを先のエネルギーで説明すれば、光の波長を全て吸収している黒の高エネルギー状態の炭を、赤というある一定の光のエネルギー状態にしているので、実はエネルギーが低い? と思いがちであるが、これは可視光線内での話である。実は赤い炭は人間の目にみえる炭の状態であり、赤くなった炭からはそれよりも長い波長である、赤外線の光波長5)もエネルギーとして放出している。この赤外線の中でも、遠赤外線のエネルギーは肉に特別なエネルギーを与える。遠赤外線は空気を媒体とせず、直接に物に放射される熱線で、肉の内部からも加熱できる6)。しかしながら、その遠赤外線のエネルギーは肉の表面から約200μmまでの深さにとどまるため5)、そこまでの肉の表面ではタンパク質を固めることとなる。炭火による焼肉で表面がカリッとなるのは、これである。また、そのカリッによって肉汁が肉の内部に押しとどめられる。さらに、肉の内部に押しとどめられた肉汁が、今度は遠赤外線のエネルギーが吸収された熱によって、じわじわと温まる。これによって、肉汁の余分な水分が蒸発し、肉の内部はジュワッと旨味成分のグルタミン酸が凝縮された状態となる6)。まさしく、カリッ、ジュワッ、ウマッなのが、炭火でする焼肉の特徴である。
炭は黒から赤となり、最後は再び黒になる。しかしながら、肉自体は、表面が赤かったのが、少し黒くなるも、その内部は、ほんのりと赤み(ピンク色)を帯びた色が完成する。いわゆるミディアムな状態である。表面が遠赤外線のエネルギーを受けてカリッと黒くなりつつも、そのエネルギーが吸収された内部の熱で肉汁がほどなく残ったピンク色が旨味凝縮の証拠の色である。これが炭火でする焼肉の食べごろ色である。
1) http://optica.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-dbc6.html (閲覧2015.8.16)
2) http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1318369768 (閲覧2015.8.16)
3) http://www.ccs-inc.co.jp/s2_ps/s1/s_04/column/light_color/vol11.html (閲覧2015.8.16)
4) https://ja.wikipedia.org/wiki/可視光線 (閲覧2015.8.16)
5) http://www.enseki.or.jp (閲覧2015.8.16)
6) http://www.agr.okayama-u.ac.jp/amqs/josiki/42-9611.html (閲覧2015.8.16)