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題名:植物は知能を持つか?
報告者:エゲンスキー

 植物は動物と異なり、素早い動きができない。素早くはなくとも、毎日植物を観察している人であれば、植物の生長は見てとれる。そこに植物の動きを感じる人もいるかもしれない。通常では風などによる外力に対して動かされる現象としての植物の動きは見てとれるも、動物のような外力によらない内的な動力源、すなわち、筋肉などの素早い動きを可能とする器官は植物にはない。そのため、一見して動いていない。しかしながら、ある特定の植物は素早い動きを目の当たりにすることができる。例えば、おじぎ草がその例である。おじぎ草の葉に触れると、瞬時に葉がしぼみ、茎が垂れ、植物が生きていることが実感できる。ただし、その機構は、特定の部位の細胞が膨圧を失うことによって起こる現象であって1)、おじぎ草に筋肉がある訳ではない。
 素早い動きが見られない植物ゆえ、人間からすると下等な生物のように思われている。生物として見なされるのはまだよいが、場合によっては瞬時の動きが見られない植物は物のような無生物と同列に扱われることもしばしばである。しかしながら、地球上にまだ何も存在がなかった時代から、最も早く進化した生物は、植物であったことには誰も異論がないであろう。動物よりも植物の方が進化上では歴史が長い。
 さて、ここで題目の疑問を振り返ると、その答えは’No’でもあり、’Yes’でもある。’No’とした理由は、知能を持つのではなく、持っているからである。イタリアの国際植物神経生物学研究所のStefano Mancuso博士は、著書「Brilliant Green」の中で植物に知能があると結論づけている。その理由は、植物の先端近くの移行領域という生長に関する部分の酸素消費量が多く、生長に際して脳の神経ニューロンと同じ活動をしていることを発見したからである2)。しかしながら、彼らは植物の具体的な知能レベルまで言及していない点が残念である。ここで知能に関する別の観点を探ると、近年の人工知能の発展には目覚ましいものがあることはご存知であろう。2006年にカナダのトロント大学のGeoffrey Hinton博士らが開発した「Deep Learning」3)という手法は、ついに人工知能自らが表現を獲得することを可能にした。人工知能による表現の獲得は長らくできないとされ4)、人間と機械を隔てる大きな障壁であったが、この「Deep Learning」の登場により、それが一変した。オートエンコーダーという自動で特徴量を抽出する処理構造が備わり3,4)、かつ、インターネット上に収集された膨大なデータの利用がその障壁を打破した。「Deep Learning」は膨大なインターネットのデータを使って、ゆくゆくは人間の知能と同じレベルにまで人工知能の知能レベルを高めようとしている。
 なぜ人工知能の話題を口にしたかと言うと、オートエンコーダーのような構造は別として、植物にもネットワークの存在は、すでに見てとれるからである。植物は真菌類などの他の生物の力も借りて地中にネットワークをめぐらせ、植物間であらゆるコミュニケーションをとっている5)。植物単体での知能レベルは現時点では不明瞭であるが、森林といった多くの植物が集まる場所では、植物には植物脳と呼べる知的機能が備わっている可能性がある。例えば、森林A地点での人間の行いを感知した植物Aは、同森林B地点における植物Bにその行いを伝達し、その状況を逐一把握している、ということも十分にありうる。これが、’Yes’となる。

1) https://ja.wikipedia.org/wiki/オジギソウ (閲覧2015.9.3)
2) http://www.ted.com/talks/stefano_mancuso_the_roots_of_plant_intelligence?language=ja (閲覧2015.9.3)
3) http://www.cs.toronto.edu/~hinton/ (閲覧2015.9.3)
4) http://www.mugendai-web.jp/archives/2628 (閲覧2015.9.3)
5) http://www.bbc.com/earth/story/20141111-plants-have-a-hidden-internet (閲覧2015.9.3)



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