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題名:バーチャルな空間での買い物が、現実での買い物となる時
報告者:ダレナン

 「○○くん、おはよう。」

行きかう人が僕に挨拶してくれる。もちろん、それは現実の僕ではない。バーチャルな空間での僕に対してである。誰もが気付かない。みんなが挨拶しているのは、僕のコピーロボット。

もうすぐ現実でのなじみのお店に到着する。今日買いたいのは、はるか昔に発売された映画「アバター」の中古DVD。今となってはとても貴重な一品だ。

「おじさん、おはよう。程度のいいアバターの中古DVD入手したと聞いたけど、本当?」

「ああ、本当さ。これだよ。」

目の前に差し出されたDVDは板面も美しく、かなり貴重なDVDであることが分かる。

「これ、いくらかな?」

満面の笑顔でおじさんに聞いてみた。

「そうだな。○○くんの笑顔に負けて、○○円でいいよ。」

もちろんその笑顔は、コピーロボットの笑顔だ。おじさんも目の前にいるのが僕のコピーロボットであることにまったく気づいていない。

「おじさん、サンキュー。」

「またいい中古のDVDが手に入ったら、○○くんに、まっさきに教えるよ。」

 僕は数日から急に手足の動きが悪くなり、病院に入院した。主治医によると、僕の病気は現代の医療技術でも治らない新しい難病であることが告げられた。僕はもう一生、外に出歩くことができないらしい。僕の大好きだった中古良品店のおじさんにも一生逢うことができない。目から自然と涙がこぼれた。その時、主治医の横にいた主技医の人が僕にこう言った。

「治らなくても、このコピーロボットをバーチャル空間から操れば、現実の君は今のままだよ。」

 科学技術のお陰で、現実の僕はベッドに寝ていても、現実の僕(コピーロボット)は僕のままだ。



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