題名:電気的パターンがカエルの胚の顔の特徴の発達に先行する
報告者:ムトウ
生体には多くの電気信号が流れている。例えば、体を動かす筋肉は、筋肉まで到達するニューロンの興奮によって発生した活動電位が、筋肉の終板(神経筋接合部)まで到達することによって収縮される1)。そのため、筋肉が動いている際は、随時、電気信号が動いている筋肉に向かって流れていることとなる。
ニューロンの興奮に伴う活動電位は、身体の内部から発生する。しかしながら、これとは逆に身体の外部から電気信号を与えることでも、筋肉を動かすことができる。外部から電気刺激を与え、それによって筋肉が動くことを発見したのは、イタリアのボローニャ出身の医師であり、物理学者であったルイージ・ガルヴァーニ博士であるが、カエルの足の中に電気が起こるのを見つけたその現象である「ガルヴァーニの発見」は電気生理学の歴史において最も有名な実験の一つであろう2)。それを図に示す。図のようにカエルの露出した坐骨神経に金属のメスを触れ、それによって電荷を拾ったことで火花が生じ、結果として死んでいるはずのカエルの足が動いた。その一連の実験の結果をまとめ、ガルヴァーニは1791年に De viribus electricitatis in motu musculari commentaries(筋肉の運動における電気の力について)と著して、生物の中に電気が蓄えられ、それを動物電気によるものと推論を立てている2)。
近年、腹部に電気を当て、それによって腹筋を収縮させて鍛えさせるようなEMS(Electric Muscle Stimulator: 電気筋刺激)マシン(アブズフィット)なるものがあるが、これは死んだヒトの腹筋ではないものの、ガルヴァーニの実験の応用とも言えるのかもしれない。さらには、死体であってもそれを蘇らせることができたメアリー・シェリーの小説「フランケンシュタイン」は、もとをただせばガルヴァーニの実験からの着想となる。このことから、生体における電気信号は、生体が生きていても、死んでいても、活動させるための有効な刺激となることは明らかである(ただし、死んでいる場合にはこの限りがある)。
図 ガルヴァーニの実験3)
一方、その電気信号は生体に対してのみではなく、まだ未分化の胚にも有効となる。アメリカのタフツ大学のDany S. Adams博士によれば、何らかの電気的パターンがカエルの胚分化に先行し、それがカエルの顔の特徴の発達に役立っていることを発見した。その映像が文献4)にあるが、これによると胚細胞の電気的パターンが発達の基本となり、その信号は一連の事象を調節していると報告されている4)。さらに、共同研究者のLaura Vandenberg博士によれば、遺伝子のタンパク物の産生よりも、目や口の発達につながる配列には生体の電気信号が必要であり、この電気信号には、特定の頭蓋顔面構造となるべくパターンが先に決められていることが示唆されている4)。それをカエルの「電気的な顔」と称しているが5)、生体に利用される電気信号には、生体を決定づける信号も含まれていることになる。電気的パターンとは、生命体の源なのであろうか。
1) http://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/pdf2/transmitter.pdf (閲覧2017.8.24)
2) https://en.wikipedia.org/wiki/Luigi_Galvani (閲覧2017.8.24)
3) https://cosmosmagazine.com/biology/young-frankenstein (閲覧2017.8.24)
4) http://now.tufts.edu/news-releases/face-frog-time-lapse-video-reveals-never-seen (閲覧2017.8.24)
5) https://www.newscientist.com/blogs/nstv/2011/07/time-lapse-tuesday-a-frogs-electric-face.html (閲覧2017.8.24)