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題名:タワーシンボルKT88
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的に No.2062の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 いろいろな状況が隅に追いやられ、エヴァンジェリンのことを考えつつも、すべてがオオワク・バク・ゼンとしていた。それでも電流スピナーは僕が傾けたコントロールレバーの進路方向(それは漠然と意図したい希望的観測のところのストーリーの進路方向と関係なく)へと淡々と真空管街まで進み、やがてぼおうっとした明かりの灯る街がフロントガラスの中央に見え始めた。あれがたぶん真空管街だろう。そのほのかな明かりの中には、近代的な技術とは異なる双三極管としての存在が感じられた。あれはelectro-harmonixの12AU7Aだろうか。そしてこちらはGenalexのKT88だろうか(図)。よくよく見ると、こっちはビーム管という存在を放っていた。

図 KT881)

 街の上空までたどり着くと街全体が薄暗く感じられ、行きかう人もほとんどなかった。ニッチな街なんだろうな、きっと、ここは…。
 電流スピナーを下降させ、給電所に降り立った。それでもあたり一帯はタワーシンボルのKT88のぼおうっとした明かりのみの灯りで、それ以外は暗闇に包まれていた。しかもシーンと静まり返っている。その有様はまるでゴーストタウンのようなだった。
 電流スピナーに給電していると、充電のレベルメーターが上がりつつ、旧式に思しきバッテリーはすでに劣化していたことも判明した。ディスプレイにはバッテリバーがすでに劣化10.3%を示していた。充電は可能だったが…。
 でも、もしかすると、Snapdragonに向かうまでに数回は給電しないといけないかもしれない。不安がよぎった。
 その後、やはりというか、ずっと充電しても92.2%でインジケータが止まったまま、充電100%まではなかなか満たない。劣化のせいだ。それでも給電を続けていると、ほの暗いタワーシンボルKT88の明かりに照らされ、向こう側から人がこちらへと向かってくるのが見えた。その人の手には12AU7Aが握られていた。その明かりはまるでたいまつを灯しているかのようだった。

「きみ、この辺で見たことない顔だが、名はなんと申す」
 僕の前に現れたのは、腰が幾分曲がった白いひげを蓄えた老人だった。
「キザワ・ミチオといいます」
「キザワ・ミチオね。どうもきみは部外者のようだが、一体何があったのだね」
「電流スピナーのバッテリーが切れそうだったので充電しに、この街の給電所までやって来ました」
「そんなのは見ればわかっておる。なぜ、きみはスマホ内部にいるかと言うことを、わしは問うておるのだ」
 そこで、僕はことの顛末を彼に話した。

1) https://www.amazon.co.jp/Genalex-GOLD-LION-MQ-TGLKT88/dp/B00I91BHN6/ (閲覧2021.6.25)



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