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題名:サルはお金をどう考えるか?
報告者:ナンカイン

 本報告書は、基本的にNo.881の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 先の報告書にて、お金と物との関連性について問うとともに、お金の価値基準について考えた。そして、お金は”物”(有形の)であるとともに、”もの”(無形の)でもあり、かつ、それらを繋ぐ”モノ”としても変換されることを示した。ここでは、その人社会においては、様々に変換するお金の価値について、ヒトと近縁のサル(フサオマキザル、および、チンパンジー)の研究から比較して眺めてみたい。イメージとしては図のような感じである(図はチンパンジーによる)。
 イタリアのCNR霊長類センターのElsa Addessi博士によれば、フサオマキザルでも記号としてトークン (代用貨幣)を使用できることを示し、任意に割り当てられた値でのトークン量を推定し、表現し、それを組み合わせて利用することができたことを報告している2), 3)。すなわち、博士によれば、トークンという本質的に価値がないオブジェクトであっても、それを価値のあるシンボルとして見なすことが、フサオマキザルでもできた3)ことになる。
 一方、チンパンジーにおいては、お金を使って初めてのお買い物に相当するような行為が出来たことが示唆されている。京都大学霊長類研究所のCláudia Sousa博士(所属は研究当時である)によれば、2歳2カ月のチンパンジー(アユム)が、トークン報酬を受け取ったマッチングツーサンプルタスクと、食品報酬を得るためにこれらのトークン(お金)を自動販売機に挿入するという2つのフェーズで構成された実験において、トークンの使用を学び、自動販売機にトークンを挿入することに成功した4)。しかも、それを母親チンパ

図 お金とサル(チンパンジー)1)

ンジー(アイ)の行動から学ぶことによって達成されたことを報告している4)。これらの研究から言えることは、トークン(お金)という”物”、”モノ”、”もの”に対する変換は、サル(フサオマキザル、および、チンパンジー)でも理解できる、ことである。すなわち、ヒトだけがお金を操る訳ではない。
 ただし、ヒトの場合、そのシンボルが、所有者の資質や技能、他者に対する優越感を強調し、ステイタス・シンボルとしての”物”の重要性を帯びる5)。そこに、ヒトのトークン(お金)の怖さが潜む。

1) http://persimmoncards.com/product_p/6443.htm (閲覧2018.8.2)
2) Addessi, E et al.: Do capuchin monkeys (Cebus apella) use tokens as symbols? Proc R Soc B 274: 2579-2585, 2007.
3) Addessi, E et al.: Preference transitivity and symbolic representation in capuchin monkeys (Cebus apella). PLoS One 3: e2414, 2008.
4) Sousa C, Okamoto S, Matsuzawa T: Behavioural development in a matching-to-sample task and token use by an infant chimpanzee reared by his mother. Anim Cogn 6: 259-267, 2003.
5) チクセントミハイ, M, ロックバーグ=ハルトン, E: モノの意味. 誠信書房. 2009.



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