題名:エントロピーが高い状態に至った観測的宇宙論の卵からオムレツを創る方法
報告者:ナンカイン
時間は後戻りはできない。例え、タイムマシンがつくられたとしても、光の速度を超えるような「タキオン」のような仮説的な粒子が存在しない限りは、過去に戻ることは不可能である1)。しかしながら、未来に関しては、物質が光の速度に近づけば近づくほど、時間の歩みが遅くなり、結果として未来に到着できる。それゆえに、宇宙における時間は、矢の如く展開する。ただし、時間の矢といえども、我々は時間の流れを観測しているのではないらしい。我々が時間として知覚しているのは、この世界の状態が記憶に留めている以前の状態とは異なる(未来ではなく過去を覚えている)ことであり、それを時間として意識し、観測している訳である。要は、我々が観測できるのは時間の非対称性(不可逆性)である2)。
時間が後戻りしないのと同様に、割れた卵は元には戻らない。この問題を解決するには、ビックバン直前の宇宙にまで遡ることでしか成し得ないであろう。今の世界では、割れた卵を見て考えられるのは、「やってしまった…」という後悔の念のみである。仮に割れた卵から得られる結果は、卵に基づく観測的宇宙論(時間の矢)を研究したという事実だけとなろう3)。その観測的宇宙論として研究された卵は、ゆで卵を作ることができない。殻のない卵では、ゆで卵の特性を生かすことができないからである。さらに、一個だけならまだしも、パックごと多くの卵を落とすなどして割ってしまった場合には、観測的宇宙論として研究された卵は無残にもそこに多く散乱される。その時、研究されつくした観測的宇宙論の卵でできるメニューは、たぶんにオムレツが最もお勧めとなるであろうか。ただし、これもエントロピーがあまりにも高い状態に至った観測的宇宙論の卵は、料理には適さない。
ここで、卵に関する話題として重要となるのは、鶏が先か、卵が先か? という疑問である。鶏がいなければ卵は生まれず、かといって、卵がいなければ鶏にはならない。どちらが最初となったかは、神のみぞ知るであるが、先のエントロピーがあまりにも高い状態に至った観測的宇宙論の卵からは、むろん鶏も生まれやしない。オムレツも難しいはずである。
一方、時間と空間を相対的なものとして、時間と空間における絶対的な存在を否定したのが、かの天才科学者であるアルベルト・アインシュタインである。アインシュタインの論文「時間の延びが外部感覚器の入力部に及ぼす効果について」4)において、「かわいい女性といるときは1時間が1分に思える。しかし、熱いストーブの上に1分間座らされたら何時間にも思える。これが相対性である。」と示した上で、本論文では「観測者の精神状態は時間を知覚する上で決定的な役割を果たす」と結論付けている。このことからも明らかなように、ヒトの心理に存在する時間の矢は、容易に延びたり、縮んだりする。さらに、強烈にオムレツを食べたい時には、夢の中で、エントロピーが高い状態に至った観測的宇宙論の卵からでも、オムレツが創れる。いい夢を見た後の幸福感は、案外このような心理的な時間の矢の操作に基づく宇宙の仕業なのかもしれない。
1) デイヴィス, P: タイムマシンのつくりかた. 草思社. 2011.
2) デイヴィス, P: 時は流れない. 日経サイエンス 別冊日経サイエンス 180: 12-17. 2011.
3) キャロル, SM: 「時間の矢」の宇宙論的起源. 日経サイエンス 別冊日経サイエンス 180: 34-43. 2011.
4) Einstein, A: On the Effects of External Sensory Input on Time Dilation. Journal of Exothermic Science and Technology 1: 1938. マースキー, S: アインシュタインのホットなひととき. 日経サイエンス 別冊日経サイエンス 180: 21. 2011.