題名:人類の健康と乳酸菌
報告者:ナンカイン
乳酸菌は人類の歴史から見ると、相当古くから活躍していた。乳酸菌が含まれるヨーグルトの歴史については報告書のNo.125にも記載されているが、かつて中近東に位置したオスマン帝国は14世紀~18世紀のおよそ500年に渡って繁栄し1)、その繁栄の最中、ヨーグルトも同じく繁栄した。トルコ料理にヨーグルトが多く使用されているのは、このためでもある。その当時、菌自体の発見はなされていないが、すでに14世紀からは乳酸菌が活躍していたこととなる。さらに遡ること、人類が作った最も古い食品であると言われるチーズについては、紀元前3500年頃のメソポタミアの神殿の石版画装飾や紀元前6000年代の湖上生活者の遺跡などにチーズづくりの痕跡が残っている2)。すなわち、チーズに至っては数千年以上もの歴史があることとなる2)。その他、ヨーグルトやチーズだけでなく、味噌、漬物などの発酵食品は、乳酸菌の存在なしには語ることができない。
腸内の菌は数にして100兆・300~500種は存在すると言われている3)。それらの菌は共生し一つの生態系をなしており、その様子から腸内菌叢(腸内フローラ)と呼ばれている3)。乳酸菌はそれら菌叢の中でも善玉菌に属し、ヒトの場合は主にビフィズス菌で構成される3)。図にビフィズス菌BB536を示す。その他に、腸内には悪玉菌(大腸菌など)や、どっち付かずの日和見菌も存在する。その割合は善玉菌:悪玉菌:日和見菌 = 2:1:7とされるが5)、日和見菌は腸管の菌叢の影響により、善となったり、悪となったりするために、
図 ビフィズス菌BB5364)
いかにして善玉菌の影響を日和見菌に与えるかが、腸内菌叢をバランスよく整える天下の分け目となる。
腸内細菌の発見は1600年代にオランダのアマチュア科学者であったアントニー・ファン・レーウェンフック氏に端を発し、乳酸菌は1857年にフランスの生化学者であったルイ・パスツール博士によって明らかとなった3)。その後、乳酸菌全般に渡る分類体系を築いたのが1919年であるために6)、今日でおよそ1世紀が経過したこととなる。乳酸菌の発見から160年、乳酸菌の全般的な科学的研究から100年ほどの年月である。しかしながら、今では腸は第二の脳とも言われ、①腸は脳の監視がなくても唯一機能できる臓器であるとか、②腸には1億個もの脳細胞が存在するとか、③腸は独自の神経系を持つとか、④腸は脳に感情のサインを送るとか、⑤腸は脳の神経伝達物質を作るとか、様々な腸の役割が見直され7), 5)、腸内菌叢の働きもそれに準じて非常に意義あるものとなってきた。その立役者は、まさしく乳酸菌に他ならないであろう。このことから、人類の歴史(健康)は、乳酸菌とともにあると言えるかもしれない。
1) 林佳世子: オスマン帝国 500年の平和. 講談社. 2008.
2) http://www.meg-snow.com/cheeseclub/knowledge/history/w-asia/index.html (閲覧2016.12.14)
3) 光岡知足: 人の健康は腸内細菌で決まる. 技術評論社. 2013.
4) http://bb536.jp/morinagamilk/ (閲覧2016.12.14)
5) http://toyokeizai.net/articles/-/95633 (閲覧2016.12.14)
6) 森地敏樹: 乳酸菌の特性と利用 最近の研究動向. Milk Science 46: 1-20, 1997.
7) http://karapaia.com/archives/52193845.html (閲覧2016.12.14)