題名:写真における絵画的アプローチ
報告者:アダム&ナッシュ
報告書のNo.235とNo.251において、我々は写真と絵画の根本的な技術の違いについて説明した。そして、そこでは、写真は被写体を際立たせるマイナスの技術を要し、絵画は被写体を塗り込めるプラスの技術を要することを述べた。しかしながら、視覚を通して、観る側の脳内にあるイメージを想定させることは、写真も絵画も同じである。すなわち、どのような被写体であろうとも、脳内で再構成されたそのイメージの元となる認識が、その人が持つ記憶と合致することで、観る側の心理に何らかの痕跡をもたらす媒体であることには写真も絵画も変わりはない。さらに、脳内のイメージに基づく心象が、より多くの人に影響を及ぼすことができれば、その写真なり、その絵画なりには、賞賛に値する何かが存在していることを意味する。その何かは、観る側のその人なりの記憶の内容に伴って多少の差異はあるものの、多くの人にとって普遍的な、あるいは、本質的な何かが存在する写真と絵画の価値は、永遠に色褪せることはない。そこで、本報告書では、写真と絵画の両方の接点を併せ持ちながら、媒体が写真である場合について、どのような接点のアプローチがあるのかについて、調査したい。
絵画は歴史が古く、油絵に話題を特化すれば、14世紀のオランダで活躍したヤン・ファン・エイクまでの歴史に遡ることができる(報告書のNo.234も参照)。その当時はカメラの技術がまだ十分でなく、レオナルド・ダビンチ時代からの構図に基づくプラスの技術が主だったと推測される。しかしながら、その後は、カメラの原型であるカメラ・オブスクラ(報告書のNo.82も参照)の発展もあり、写真の被写体を際立たせるマイナスの技術も絵画に応用されたことは容易に推定される。今では、写真も絵画も当たり前となったために、両方の境界があいまいとなったが、写真は報道の一面も持つために、絵画のようにアートとして位置づけしにくい面もあることは否めない。しかしながら、ドイツの写真家であるAndreas Gursky氏の1999年の代表作「ライン川Ⅱ」が、2011年にクリスティーズにて430万ドル(5億1100万円)で落札されたことは記憶に新しく1)、写真もすでにアートとして認められている。ここでは、もはや、写真はアートか、そうでないかの論争は、意味のないものとなったのかもしれない(報告書のNo.8も参照)。例えば、イスラエルの写真家のZachar Rise氏も写真に絵画的なアプローチを実践し、レンブラント・ファン・レインなどの絵画のオールドマスター2)の印象を写真に持ち込んでいる。氏の写真を図に示す。氏のインタビューによると、レンブラント、ラファエロ、カラヴァッジオに影響を受けているとのことであり4)、この写真を見てもその影響がよ
図 Zachar Rise氏の写真3)
く分かる。
1) http://karapaia.livedoor.biz/archives/52182051.html (閲覧2016.9.20)
2) Sheppard, J: How to Paint Like the Old Masters. Watson-Guptill. 1983.
3) http://www.artfreelance.org/m/photos/view/Natasha-2016-08-15 (閲覧2016.9.20)
4) https://jrphoto.wordpress.com/spotlight-interview-portrait-photographer-zachar-rise/ (閲覧2016.9.20)