題名:イギリスの奇才ピーター・モリニュー氏の軌跡を辿って
報告者:ナンカイン
ゲームは楽しい。やめられない。大人になると、ゲーム以外のこともしないといけないが、子供時代は自らゲームをやめることは至難の業である。そこには、ゲームの各場面を攻略することで得られるエンドルフィンが脳内に存在するからである。そのエンドルフィンとは、脳内の神経伝達物質の一つであり、脳の報酬系*に多く分布し、多幸感をもたらす物質である。その作用はモルヒネ同様であるため、脳内麻薬とも呼ばれる1)。所謂「ランナーズハイ」は、エンドルフィンの分泌による1)。
ゲームに伴う報酬系の活性化については、すでに知見が得られている。特に男女では差があり、Hoeftら3)によると、ゲームによる報酬系の主な経路である中脳皮質系ドーパミン経路の活性が、女性よりも男性の方が高値であったことが報告されている。このことから、男性の方でよりゲームに「ハマル」(Hoeftら曰く”hooked”)のは、この背景があるからであろう。実際、子を持つ親御さんから聞かれることとして、男の子がゲームをやめられないというのは、ここで明らかとなっている。しかしながら、ゲームを遂行すること、と、ゲームを創作すること、ではまったく次元が異なる。単純にいえば、前者は金にならないが、後者は金にもなり、「ハマル」ゲームを創ったゲーム開発者はその道の英雄になれる。表題のピーター・モリニュー氏もその一人である。図にピーター・モリニュー氏を示す。実に知的な方である。
図 ピーター・モリニュー氏5)
ピーター・モリニュー氏は1959年生まれの現在56歳であるが、すでにこの年にして、2005年に大英帝国勲章を受章、2007年に芸術文化勲章を受章、サウサンプトン大学より名誉理学博士号、2011年にGame Developers Choice Awardsにて生涯功労賞 を受賞、2011年に British Academy Video Games Awardsにてフェローシップを受賞している5)。彼によるゲームで特に有名なのは、1987年にレス・エドガー氏と設立した自身のブルフロッグというゲーム開発会社から発売された「ポピュラス」、「テーマパークシリーズ」、「ダンジョンキーパー」となろうか。これらはゲームの世界が、ただのゲームの世界でなくなったゲームでもあり、ゲームファンからもゴッドゲームと呼ばれる。ゴッドとは、もちろんゲーム自体の凄さもあるが、実はプレーヤーがゲームの世界で神様となれるのである。例を挙げれば、「ダンジョンキーパー」は、プレーヤーが地下迷宮(ダンジョン)を築き、そのプレーヤーがダンジョンキーパー(ダンジョンの管理・経営者、すなわち神様)となってゴブリン・モンスターといったクリーチャーを手下にして育成し、このダンジョンを打ち滅ぼそうとする正義の勇者達をやっつけるというシナリオである。このシナリオだけでも、どうしてこのような発想が浮かんだかを、奇才モリニュー氏に尋ねてみたいものである。筆者も彼の罠に見事に「ハマッタ」。
1) https://ja.wikipedia.org/wiki/エンドルフィン (閲覧2016.1.6)
2) https://ja.wikipedia.org/wiki/報酬系 (閲覧2016.1.6)
3) Hoeft F et al.: Gender differences in the mesocorticolimbic system during computer game-play. J Psychiatr Res 42: 253-258. 2008.
4) https://ja.wikipedia.org/wiki/ピーター・モリニュー (閲覧2016.1.6)
*: 報酬系とは、ヒト・動物の脳において、欲求が満たされたとき、あるいは満たされることが分かったときに活性化し、その個体に快の感覚を与える神経系のことを示す2)。