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題名:二つの海洋
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1942の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

(ねぇ、クミちゃん。その子どもは本当に僕の子どもなの)
(そうよ。決まってるじゃない)
(いつできたのかな?)
(伊香保温泉の時以外ないじゃない。
でも、あの時、できたって確信したんだ。とっても、うれしかった。
そしたら、案の定、後日に妊娠検査薬で陽性になった。やっぱり妊娠してたことが分かった。
病院に行ったら「おめでたですよ」って言われた…の)
(でも、なんで僕に教えてくれないの?)
(それで十分だったから。
あなたに愛されてそれで充分だった。
もうそれで本当に充分だったの。
もうあれ以上のしあわせはない、ってそう思えた。
あの時。だから、もう…)
(ふ~ん、そうなんだ)
(そう…だよ…。タケヒサさん)
(でっ、ところで、クミちゃん。その子どもは僕に似ているの?)
(似ている。特に目元が…、見てみる?)
(うん、お願い)
 そうして、幻覚の中にクミちゃんは抱いている子どもを僕に見せてくれた。その子どもは、黄色いヒヨコの着ぐるみのような服を着て、首からはブリキの太鼓を下げていた。
 彼は、とことことことこ、と軽快にそれを鳴らしている。
(ほら、どう?)
と、クミちゃんはその子どもの顔を僕に近づけた。にかーっとその子どもは満面の満面の笑みを浮かべた。その笑い顔が僕にそっくりだった、気がした。
(オスカル~、パパよ~、xxxx、xxxxxxx………..

 そうこうするうちに、だんだんと幻覚がぼやけ始めたことに気づいた。光をくれた人はだんだんと終焉に向かい、僕は途中のシーンで目に何だか涙が溢れ出ていた。
 なぜだか知っている。この光景を…。
 この世から消え去る前に光をくれた人、その一人はクミちゃんに間違いなかった。クミちゃんがいなければ、僕はあの日、会社の近くの川に飛び込んでいたんだ。
 そうして僕は、二つの海洋の間の光(The Light Between Oceans)を求め始めた。それは、一つはクミちゃんという海洋で、もう一つは妻のシズコという海洋だった。



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