題名:面影を
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的にNo.1931の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
「おうまさんや境になー」という感じで、大トロがお馬さんだったことが、その対象たる大トロが、大将から判明した。その判明した後でも列車は留まることがなく相変わらずも、がたん ごとん がたん ごとんとして走っていた。一度乗り出すともう止められない。だから、
「のせてくださーい」。
そうして、その列車は闇を抜けて、光の海へと向かっていた。その光の海は、きっと多くのマグロが泳いでいるような、夢がちらばる無限の宇宙であるに違いない。だから、人は誰でも、しあわせを探す、旅人のようなものである。そう、思えた。
でも、いつか青い鳥に出逢えるのだろうか?
ささきいさお様、いつそれに、僕は出逢えるのでしょうか?
気が付くと僕の意識は青い鳥によって、元の世界に戻りつつあった。そして、今、目の前にいるのは青い鳥ではなく、黄色いヒヨコだった。名札には、あの時と同じく”ワカモト・オスカル”と書かれてあった。
その”ワカモト・オスカル”は、妻シズコがいうところの僕とクミちゃんの間にできた子ども、のはずだった。
90%カカオのビターすぎるチョコレートをかみしめながら、僕は、シズコにそのことを確かめてみた。
「その子供は、本当に、僕の子どもなの?」
シズコは静かにこくりと頷いた。
「じゃあ、僕は、お父としてクミちゃんに逢えばいいのかな?」
シズコにそっと尋ねた。シズコの眼からは未だにとめどなく涙がこぼれ落ちていた。
「ううん、ダリオくんは、クミに逢わなくていい。逢わせない。だって、ダリオくんは、クミには本気だったんでしょ。ダリオくんの妻はわたしだけ…」
それに対して、なにも言い返せなかった。
僕は、しばらく黙っていた。すると、シズコはその雰囲気を察したように、
「その子は、わたしとクミとで育てるの。例え、ダリオくんの子どもだとしても、それは間違いないけど、その子は、クミとわたしの間で固い契約で結ばれて産まれた子どもなの。だから、絶対に渡さない」
「クミちゃんもそのことは納得してるの?」
「もちろん、そうに決まってるじゃない。わたし、クミに養育費を払っているのよ。そしてね、時々、オスカルくんにわたしのお乳をあげてるのよ…。お父としての役目で。それが、うれしくって、うれしくって」
「お乳(父)って」
「なんだか出るの。不思議と、最近ね…」
「そしてね、オスカルくんは、目元があなたにそっくりなの…」
そう言われると、どうにもこうにも返答できなかった。ただ、じっとそのとめどなく涙がこぼれ落ちているシズコを見つめていると、クミちゃんの面影を思い起こさずにはいられなかった。そういえば、二人はとても似ている。そうだ。僕はその時、愛していた女性二人が、同じ人物のようにダブっていた。