題名:しじみゆえに、しみじみと
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的にNo.1624の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
晴美さんと手を繋ぎながら、日本シジミ研究所に入った。館内を回ると、シジミに関する情報が盛りだくさんあった。建物自体は小さな建物であるものの、日本で唯一のシジミ調査・研究を目的とした中村幹雄所長の夢がそこに込められているようでもあった。なんでも、中村幹雄所長が、自分一人で自由に気ままにシジミの生態学研究を行いたいという想いから、35年間務めた島根県内水産試験場を早期退職し、夕日がとても美しく見える宍道湖の湖畔に建てた、小さな小さな研究所とのことであった1)。学のない僕でもその志に感動した。確かに、写真でも夕日がとても美しい場所であることも分かった(図)。
図 研究所からの夕日2)
「晴美さん。この本1)買うよ。僕もしじみ漁に携わっている以上、ちょっとは勉強しないといけないよね」
晴美さんは手をぎゅっと握り返して、僕の方を見ながら、満面の笑みを浮かべた。
晴美:「うん♡」
(でも、このまま晴美さんと手をつないだままでいいのだろうか。僕は琉花のことを”愛してる”んじゃなかったのか)と、しじみゆえに、しみじみと思った。しみじみ飲めば、しみじみと~な想い。写真を見ながら、舟唄も頭の中で流れた。そこで、晴美さんに告げて、本を読むという名目で車に戻った。手を離すと晴美さんからの香りに翻弄されつつあったが、館内で熱心にメモを取っている晴美さんを見ると、この方がよかったのかもしれない。
車の中で所長の本を読んでいると、眠気に襲われた。ふだん勉強していないことで、いきなり高度なことを学ぶのは無理だったのかもしれない。しばらくして、窓にもたれながら、寝てしまったようだった。
夢の中では僕は泥の中にいた。体の外側も真っ黒だった。二枚の堅い貝に挟まれ、入水管で呼吸しているかのようだった。周りには誰もいない。僕一人だけの世界。たぶん、とても落ち着ける僕一人の世界。誰とも交流しない。その時、僕と同じように黒い身体をした二枚の貝に挟まれた個体が僕に近づいてきた。その個体からはとてもいい香りがしている。そう、まるで晴美さんからの香りと同じ。僕一人の世界だった泥の中に、別の個体がいる。それ自体が不思議だった。今までこんなことはなかった。僕はずっと貝の中に閉じ込められていたはずなのに、その個体の影響で、僕のこころの殻が開いてしまった。何かの蓋が外れたように…。
1) 中村幹雄: シジミ学入門. 日本シジミ研究所. 2018.
2) https://yamatoshijimi.com/live (閲覧2020.2.14)