題名:現実の3次元世界を如何にして現実的な2次元世界に閉じ込めるか
報告者:アダム&ナッシュ
イタリアのルネサンス期を代表する芸術家であり、同時に、偉大な科学者であったレオナルド・ダ・ヴィンチは、芸術面においても科学的手法を多く取り入れ、人体の構造に関して解剖学を通して知りえるとともに、それを絵画にも応用することで、絵画の芸術性を高めた。文献1)にも記述されているように、レオナルド・ダ・ヴィンチは、1510年から1511年にかけてパドヴァ大学解剖学教授マルカントニオ・デッラ・トッレとともに共同研究を行い、200枚以上の紙にドローイングを描くとともに、それらの多くに解剖学に関する覚書をも記している。そのことから、レオナルド・ダ・ヴィンチにとって、絵画とは、現実の3次元世界を如何にして現実的な2次元世界に閉じ込めるかといった一種、実験的な要素も秘めていたのかもしれない。
一方、現実の3次元世界を現実的な2次元世界に閉じ込めるには、よりリアルに描くことで、それが達成されやすい。ただし、写真は写真のままであるように、写真のように絵画に起こし、リアルに現実を投影したとしても、それは真のリアリズムとはならない。例えば、1600年代に活躍したスペインの画家、ディエゴ・ベラスケスの作品もリアルであっても、近づくと決して写真と同じような表現ではなく、そこに絵画ならではのマチエールが見て取れる。あるいは、近年では、リアリズムの雄とされ、リアリズムの絵画において多大な影響を持つ同じくスペイン画家、アントニオ・ロペス・ガルシアも、写真自体はすばらしいが、それは絵画と全く異なるものであり、リアリズムは物を写すことではなく、物を理解するための本質的な変化が必要であることを伝えている2)。これは、本質を見極めるのはどのような絵画であっても同じで、絵画ならではの特徴でもあるが、スペインでは、アルタミラ洞窟(スペイン北部にある洞窟)から脈々と受け継がれる絵画表現の極意ともとれようか。ゆえに、アルタミラの洞窟壁画はその当時の人類のリアリズムでもあったに違いない。
ここで、例えば、解剖学を十分に学び、リアリズムにも精通している画家がいるとしたら、その作例はどうなるであろうか。そこには驚異的な表現が描写されているのは容易に推定できる。その一人がスペインの画家、Dino Valls氏になるであろう。Dino Valls氏は、1958年生まれであるが、外科医としての免許も有している画家であり、外科医が芸術家になったよい例でもある3)。そのため、扱うテーマが、心、無意識、医学、宗教、芸術と多岐にわたり、非常に深いレベルで私たちの何かに触れる3)。作例は氏のHP4)や画集「Dino Valls: Ex Picturis II: Paintings 2000-2014」などにもあるが、ここでHPにある拡大された作例を抜粋すると、驚異的な表現力が垣間見られる。
図 Dino Valls氏の作例の抜粋4)
1) https://ja.wikipedia.org/wiki/レオナルド・ダ・ヴィンチ (閲覧2018.12.21)
2) ロペス, A 木下亮(訳): アントニオ・ロペス 創造の軌跡. 中央公論新社. 2013.
3) https://beautifulbizarre.net/2015/04/17/the-new-icons-of-dino-valls/ (閲覧2018.12.21)
4) https://www.dinovalls.com/index.php (閲覧2018.12.21)